カニクイザル

カニクイザルさんのプロフィール

和名		カニクイザル

分類		霊長目・オナガザル科

学名		Macaca fascicularis / Macaca irus

英名		Crab-eating Macaque / Long-tailed macaque

分布域		東南アジア

生息環境		海岸や川沿いの湿地帯など

体長		40～55cm 程度

尾長		40～65cm 程度

体重		雄で5～9kg、雌で3～6kg 前後

IUCNによる保存状況評価 / 絶滅危惧種(EN)

カニクイザルはニホンザルと同じオナガザル科に属しているが、ニホンザルよりも尾が長いのが特徴で、体長よりも長い尾をもっている。

東南アジアに広く分布していて、群れをつくって生活しているが、人の住む環境にもよく適応していて、農村や都市部でも見られる。

●分布域・生息環境
●大きさ・特徴
●生態・生活
●繁殖・寿命
●保護状況・その他
●写真ページ

カニクイザルの分布域・生息環境

カニクイザルは、ミャンマーからベトナム、マレー半島やフィリピン、インドネシア、ボルネオなどに広く分布していて、島嶼部のパラオやサモア、モーリシャスや東ティモールなどにも人為的に移入されている。

主に森林や二次林、マングローブの茂る河川林などに生息しているが、草原や湿地などのほか、耕作地周辺や民家の近くでも見られ、カニクイザルはさまざまな環境に生息している。

カニクイザルの大きさ・特徴

カニクイザルは、ニホンザルやブタオザルなどと同じマカク属に属しているが、体つきはニホンザルよりもずっと細っそりとしている。

体長は40～55cm程度、体重は3～9kg程で、雄は5～7kg程の平均体重があるが、雌は3～4kg程で、体は雄の方が大きい。

尾はかなり長く、単に「オナガザル」と呼ばれることもある。
この尾は50～60cmはあり、体長と同じほどかやや長く、樹上でのバランスを取ったりするのに役立っている。

毛色は灰色や灰褐色、褐色や黄褐色などで、亜種や個体によって変化がある。

顔は黒っぽいものや赤っぽいものもいるが、普通は頭部に暗色の冠毛があり、頭頂の毛が立ったようなものも多く、まぶたや目のまわりは白い色をしているのが特徴になっている。

また、カニクイザルの頬の毛はヒゲのようにやや長く、食べ物を一時の間蓄えておくことができる頬袋をもっている。

カニクイザルの生態・生活

カニクイザルは、低地から標高2000m程の高地まで姿が見られ、森林や二次林、草原などに生息しているが、多くは河川や湖などの水辺近くの森林や海辺、マングローブの茂る湿地帯などを好んで生息している。

また、湖沼や河川、海岸などの水源から遠く離れることはないが　環境にもよく適応し、人の住む町や村などにも生息している。
中にはボンネットモンキーのように寺院などに住みついているものもいて、近年は都市部にも進出している。

カニクイザルは、他のマカク属の仲間と同様、社会的な構造をもつ群れをつくって生活している。

群れの大きさは食糧事情などによって幅があるが、普通は2～5頭の雄と10～15頭程度の雌、その子どもたちからなる20～50頭程の群れをつくって生活している。

雄は群れの間を移動することがあることから、群れは母系になっていて、雌の間にははっきりとした優劣が見られる。
その順位は雌の生涯を通して安定しているとも考えられている。
また、若い雄などが数頭ほどの雄だけの群れをつくっていることもある。

行動範囲は群れの大きさや食糧事情などによって幅があるが、1.25平方km程とも言われている。

カニクイザルは、名前のように、カニなどの甲殻類も食べるが、多くは果実を中心として木の実や木の根、キノコ、穀類などを食べる。
また、雑食性であるので、昆虫や鳥類、魚や貝など、さまざまなものも食べる。

村落や都市部に生息するものはゴミ捨て場などから餌を得ることも多く、耕作地でタロイモやバナナ、ココナッツやマンゴーなどの作物を食べてしまうこともある。

また、食料の豊富な所では、ブタオザルやテングザル、ベニガオザルやテナガザルなどと一緒に見られることもある。

カニクイザルは地上・樹上共に活発に動き回るが、樹上では長い尾を使ってうまくバランスを取り、5m程の距離を跳躍することができる。

また、カニクイザルは木登りだけでなく、泳ぎもかなりうまい。
これは捕食者避けるためとも考えられているが、河川や海岸の浅瀬などで泳いでいたりもする。

ところで、カニクイザルは人などの髪の毛を使って、デンタルフロスのように歯の間にはさまった食物の残りを取り省くといった行動をすることが知られている。
これは、チンパンジーなどが道具を使うことに似ていてるが、親がこの歯磨き行動を子どもに教えようとすることも観察されている。

石を使って貝や甲殻類を割ることも観察されているほか、砂のついた果実を川に流すなどして洗うことも知られていて、カニクイザルは知能も高い。

性質も荒くないが、成獣の雄には大きな犬歯があるので、無暗に近づいたりするのは危険である。

外敵はトラやヒョウ、ウンピョウなどのほか、イリエワニやシャムワニやなどの大型の爬虫類や、時にはワシなどに襲われることもある。
しかし、一番の外敵は人間で、実験動物としての捕獲や開発による生息地の減少が脅威になっている。

カニクイザルの繁殖・寿命

カニクイザルにははっきりとした繁殖期が見られず、一年を通して繁殖することができる。

また、繁殖のピークは季節や地域によって異なるが、マレー半島では5～7月頃に出産のピークが見られ、ミャンマーでは3～7月の間の食料が豊富な雨季に多くの出産が見られる。

カニクイザルの繁殖は雌雄ともに複数のものと交配すると考えられていて、雌は妊娠期間162日～193日、平均すると5.5ヵ月ほどで、普通は1産1子を出産する。

生まれたばかりの子どもは体重320～350g程で、体毛は黒っぽい色をしている。
生後3ヶ月を過ぎることから親と同じような毛色に変わりはじめるが、1～1.2年ほどは授乳期間がある。

雄で6年、雌は雄よりも早く、4年程で性成熟し、雌は成熟後も出生した群れの中に留まることが多いが、雄は性成熟する頃には群れを離れていくことが多い。

野生下での寿命は詳しくは分からないが、15年程度と考えられている。
一方、飼育下での寿命は長く、25～30年ほどの寿命がある。

また、カニクイザルはアカゲザルと交雑することが確認されていて、その子どもは繁殖能力をもっている。
その為、分布の北限辺りは広範囲の交雑が起こっていると言われているが、カニクイザルはブタオザルと交雑することも知られている。

カニクイザルの保護状況・その他

カニクイザルは広範囲に分布していて、かつては多く生息していたが、近年は生息数が激減している。

近年は都市部でも見られるが、これは開発などによる生息地の減少などの影響もあると言われていて、現在、国際自然保護連合(IUCN)では絶滅危惧種(EN)に指定している。

カニクイザルはアカゲザルと同様、各種ワクチンをはじめ、さまざまな医学用実験動物として用いられているが、これらの捕獲も生息数の減少を招いているとも指摘されている。

一方、生息域が人の生活圏と重なる所では、人の持ち物を盗んだりするほか、逃げ出したものなどが野生化して、地域によっては農作物の被害も出ている。

カニクイザルは国内でも特定外来生物に指定されていて、無許可の飼育などは禁じられている。

尚、カニクイザルは分布域が広いこともあり、次のような亜種が知られている。

Macaca fascicularis fascicularis (Common long-tailed macaque)
インドネシアやマレー半島、フィリピン、タイやカンボジア、ベトナム、フィリピンなどに分布する基亜種

M. f. aurea (Burmese long-tailed macaque)
ミャンマーやラオス、タイ西部や南部など

M. f. atriceps (Dark crowned long-tailed macaque)
タイ中央部とクラムヤイ島

M. f. condorensis (Con Song long-tailed macaque)
べと何のコンソン島やホンバ島

M. f. fusca (Simeulue long-tailed macaque)
インドネシアのシムル島

M. f. karimondjiwae (Karimunjawa long-tailed macaque)
インドネシアのカリムンジャワ諸島

M. f. lasiae (Lasia long-tailed macaque)
インドネシアのラシア島

M. f. tua (Maratua long-tailed macaque)
インドネシアのマラトゥア島

M. f. umbrosa (Nicobar long-tailed macaque)
インドのニコバル諸島

この他、フィリピンに分布するものを別亜種・M. f. philippinensis とする意見もあるが、この亜種については意見が分かれている。

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